黒猫と星空


その日は星降る夜、という表現がとても似合う夜だった。
夏島の気候に入ると、波も穏やかで、頬に当たる夜風が気持ちいい。
こんな夜は、誰が言い出したのか思い出せないが、さも当然のように宴会となった。
甲板には大量のお酒と、コックが存分に腕を振るった料理が並ぶ。
満天の星の下でクルー全員が乾杯をすると、後はもう、想像通り。
しばらくすると、水面に映る星を見つけて、船長と船医が盛大に喜んでいた。
この空の名前を天の川というそうだ。
いい名前だ、と船長が喜んでると、ジョッキ片手のナミが、この時期には一年に一回しか会えない星があるという伝説を語ってくれた。

それを興味深そうに聞いていた船長は、右手の酒を思い切り煽る。
いつもより早いペースでルフィの杯は進み、その酒の味が判らなくなる頃。

「ぞぉ〜ろぉ〜!」

非常に機嫌の良さそうな声で、ひいては酒に呑まれた顔で船長がゾロのもとにやって来た。
その片手のジョッキには、ほぼ酒が入っていない。

「なーなーゾロー、酒なくなったー」
「コックに言え」
「えーゾロのくれー」

人の返事も聞かずにゾロの酒瓶を奪うと、さっさと口に運ぶ。
まぁ、返事を待っても結局は船長のものになるとは思うが。

「うわーにがー」
「そりゃそうだろ」

うちの船長は甘い酒が好きだ。
反面、ゾロは苦めの酒が好きだった。
ルフィは言いたい放題言って、さっさとゾロに酒瓶を突き返すと、膝の上に乗り、きゃっきゃとその首に巻き付いた。

「なんだ?」
「んー。なんかいーい気分だぞー」

まわりがくるくるする〜。と、ゾロの首に絡めた両腕に力を込める。

「そりゃそれだけ呑めばな…」

そこで言葉が遮られる。
巻き付いていた腕はいつの間にかゾロの顔に回り、両頬を捕まえられると、有無を言わさず唇が塞がれた。
酒のせいか、触れた場所はほのかに熱い。

「…なんだ?」
「うん、ちゅーだ」
「んなこたぁ判ってんだよ」

ゾロの抗議もすべて聞き流して、ルフィは唇にキスを繰り返す。
まるで小鳥のように軽い音を立てて続けざまに降る。

「…ちょ、ルフィ」
「なんだー」
「酔ってんのか?」

少し呂律の回らない口調と、とろんと充血した目。
すっかり酒の匂いが漂うルフィの細い身体を抱き留めてゾロは酒瓶を置いた。
その間にも休むことなく呼吸が遮られる。
声を出したいのに会話の途中で言葉が途切れ、会話らしい会話など成立しない。
酔っ払い相手にそんなもの求めるほうが間違っているのかもしれないが、相変わらず突発的な行動にゾロは内心ため息をつく。
人前でするな、と再三言っているというのに。

「ゾロ」

そこで上から硬いナミの声が降った。

「もうルフィ部屋に連れてって」

どちらかというと、呆れた声だ。
理由はとても理解できた。
見兼ねたのか耐え切れなくなったのかはたまたその両方なのか。

「しょうがねぇなぁ」

ゾロはいまだにキスを続けようとするルフィを肩に担ぎ上げ、部屋に向かう。

「ほどほどにねー」

後ろからかかる呆れ声に、ゾロは振り返ることはなかった。





「…ルフィ」

部屋に戻ってもキスを続行したがる船長に、ゾロは強めに名前を呼んだ。
ぽやん、と焦点の合わない眼差しがゾロを見詰める。

「…お前ほんとはそんなに酔ってないだろ」
「ばれたか」

すると、黒い瞳に光が入って、ルフィは舌を出した。

「でもい〜い気分なのはほんとだぞ〜」

ある程度は酒も回っているが、意識を無くすほどではないらしい。

「…なんでこんなこと…」
「んー、ちゅーしたかっただけだ」

ルフィは身体をソファに下ろされたが、ゾロから離れようとはせず、細い腕をゾロの首に絡めた。
ちょうどゾロの首にぶら下がるような形だ。
それに引き寄せられたので、覆いかぶさるようにして、ゾロはソファの上に腕を張る。

「皆の前でしたらナミが怒るだろ」
「まぁ…そうだが」
「でもおれは今したかったんだ」

だから酔っ払ったふりなどしたのか。
ししし、とあの笑顔が笑う。
思わず眩暈がするような衝撃をゾロは頭に食らった気がした。

「…おれは、一年に一回しか会えないなんていやだからな」
「気にしてたのか」
「ナミがあんな話するから」

ふぅ、とゾロはひとつため息をつく。
唇を尖らせる船長を抱き寄せて、

「おれはどこにも行かねぇよ」

言い聞かせるように、側で囁いた。

「待ってるだけなんて性にあわねぇ」

川のひとつやふたつ、越えて見せるさ。

「ちゃんと迷わず来いよ」
「う」

一瞬言葉に詰まる。
ゾロの下で、ルフィが笑った。
ゾロも笑った。
そしてもう一度、唇を寄せ合う。

「……で、ここまでしといて、なにもなし、ってことはねぇんだろ?」

ゾロの目にあの激情の光が入った。

「…んー、もちろん?」
「なんで疑問形なんだよ」
「ししし、嘘だっ」

両腕両足でゾロにしがみついてルフィは笑う。

「さ、かかってこいっ」

挑発的に船長が笑い、あっさりそれに乗ってやる。
そのまま二つの影が折り重なるようにソファに沈んだ。





「…ねぇねぇナミさん。オレ達、今日どこで寝たらいいんですかね?」
「何言ってるの。朝まで付き合いなさいよ」

夜はまだ長そうである。


end.


人前でちゅっちゅしたかった船長さんの話。
なぜか私が書く船長さんは腹黒さんに…。
最初は七夕用に書いたわけではなかったので、若干季節色が薄いんですが…。
ナミさんは酔ったフリをしてる船長さんもお見通しです。

お粗末さまでした!

2010/07/08