僕らの膝の上戦争
「チョッパー!釣りしよーぜーぃ!!」
しばらく平和な日々が続いたゴーイングメリー号で、船長ルフィの快活な声が響いた。
「い、今行くーーー!!」
呼ばれて高らかに返事をした船医は、ルフィの元に走る。
とたとたと鳴る蹄の音を側で聞いたゾロは、昼寝を決め込んでいた瞼をうっすらとだけ持ち上げる。
「………」
向こうに走っていく小さな船医の背中を黙って見守ると。
「…だーかーらー、そのあからさまな嫉妬顔やめなさいよ」
ナミの呆れた声が降る。
「……んな顔してねぇ」
「してるわよ、眉間の皺、こーんなにしちゃってさ」
自分の眉間に指を当てて、思いっきり顔をしかめてみせるナミ。
「あいつがチョッパーお気に入りなのは周知の事実じゃない。しばらくすれば落ち着くわよ」
船医であるチョッパーが仲間になってからというもの、すっかりルフィはチョッパーに構いっきりだ。
特に抱っこがお気に入りらしく、隙あらばチョッパーを抱えて歩いている。
チョッパーもまた文句を言わないから、そのままだ。
まぁ、確かにチョッパーの抱き心地はいい。
ゾロも何度かチョッパーによじ登られた時にあの毛皮っぷりを堪能はしたものだ。
正直な話、チョッパーと遊んでいる船長を見るのも、悪くはないのだ。
まるで子猫同士がじゃれあっているかのようで、何か可愛い生き物が二匹、一緒に遊んでいる。(ように見える)
ただ、独り占めとは新顔の癖にふてぇ野郎だ。と、思っていたりもする。
完全に言いがかりだ。
この矛盾した気持ちをもやもやと胸の内にしまいこみながら、その様を見ていた。
「あぁ、そういえば、ゾロは知らないんだっけ」
「何だ?」
ふと口を開いたナミはそんなことを言った。
「そうね、まだ内緒にしとくわ」
「…なら言うな」
その内わかるわ、と笑ってナミは軽快にキッチンに入っていった。
「…なんなんだ、あいつ」
そんなナミの背中を見送って、ゾロは渋い顔をした。
そして昼下がり。
天気は晴天、波も穏やか。
午後の最高のひと時。
「チョッパー!!昼寝すっぞーーー!!!」
ブランケットを持って甲板に這い上がってきたルフィは、高らかな声で船医を呼んだ。
ちょうどゾロの側を通ったので、思わず手が出ていた。
ルフィの細い腕を掴むと、あの大きな目とばっちり視線が合う。
「なんだ、どーした?ゾロ」
「…いや、」
「なんだ、ゾロも一緒に寝たいのか?」
「……う」
率直に言えばそうなんだが。
「いや、その…あのな、ルフィ」
「なんだ?」
「……その、最近チョッパーに構いすぎじゃないか?」
「おれ、チョッパーすきだからな」
「……知ってる」
「でも、おれ、ゾロも好きだぞ?」
「う」
それだけで、何も言えなくなる。
「一緒のすき、か?」
ちょっと意地悪な質問ではあった。
どう返ってくるのか、判っているのに。
一瞬、どういう意味で言われたのか考えたルフィだったが、次の瞬間、ぷ、と吹き出した。
「いーや、違う好きだ」
そう言って、ゾロの頬を両手で捕らえると、口に軽く口付けをした。
それだけで、全てどうでもよくなってしまう。
吹き出されたことは心外だが。
大概に現金な自分に、ゾロはため息が漏れたが、
「……昼寝、するか」
「おうっ」
ルフィが笑顔なので、それでいいと思った。
重たい腰を上げて、ゾロは日の当たる場所へ足を向ける。
何度か首を回して、欠伸をするゾロの背中に、ルフィは一人呟いた。
「……だから、もう誰にも貸すなよ」
「ん?なんか言ったか?」
「んーん、なんでもない」
振り返ったゾロに、に、っと笑いかけると、軽やかに身を翻して、ルフィは走り出した。
「チョッパー!」
「あれ、ゾロも一緒に寝るのか?」
「おう、今日は三人で昼寝だ、いいだろ?」
ししししし、とあの笑顔で笑う。
「うんっ」
三人というのが嬉しかったらしく、チョッパーも一緒に笑った。
お気に入りの場所にゾロを座らせると、ルフィはチョッパーを抱きかかえ、ゾロの膝の上に座る。
「ゾロ、毛布毛布っ」
その上からブランケットを被せて、二つの心音に挟まれるようにして、ルフィは目を瞑った。
いとも簡単にゾロの膝の上で寝息を立て始めるルフィを見て、ゾロもひとつ息を吐く。
ぽかぽかと差す日差しに、瞼はすぐに重たくなってくる。
あぁ、平和だ。
その様をデッキの上から眺めていたナミは、満足そうに少しだけ笑う。
「おーおー、仲のよろしいことで」
今日のおやつであるアプリコットケーキと紅茶をトレイに乗せたサンジが、キッチンから顔を出した。
「なんであんな風になってんだ、あいつら」
「あ、サンジくんも知らないんだっけ?あれの原因」
「船長がやたらと船医を構うので、剣士が不機嫌ってやつですか」
「そうそう」
もはや船内周知の事実だ。
「事の発端はね、この間寄った島で、ゾロに船番お願いしたじゃない、チョッパーと」
「あぁ、そういえば」
サンジはナミをパラソルの下のテーブルへ促し、トレイに乗せていたお皿を並べた。
「そのときね、船番二人とも、寝ちゃってたのよ。しかも、チョッパーはゾロの膝の上で」
「あぁ、なるほど」
サンジはそれだけで理解したようだった。
その理解力にナミは微笑む。
「チョッパーとゾロって、なんかやたらと仲がいいから」
そこでナミは紅茶を口に運ぶ。
「余計、ルフィがチョッパーに一杯構うようになったのね」
「どっちも好きだけど、どっちも渡したくないんですよ、あのバカは」
「ゾロにチョッパーを取られないように、でも、チョッパーにも、ゾロを取られないように、自分が一緒に寝るんだーってね」
「それで、あの形に落ち着いたわけですか」
サンジはもう一度、デッキに視線をやる。
それはもう幸せそうに寝息を立てる三人が目に入った。
「ルフィの嫉妬はめんどくさいですからねー」
サンジはやれやれ、とため息を吐いて、ポケットから探り出した煙草に火を着けた。
「ほんと、顔に出ない分、ゾロより凶悪だわ」
end.
チョッパーにお気に入りを取られまいと頑張る船長と、
同じくチョッパーにお気に入りを取られた剣士。
でも、二人ともチョッパーがだいすきで、お互いにチョッパーと遊んでいる姿もすきなので、遠隔攻撃に出たという。
…ゾロルですよ。
それにしても良くあるネタですが、チョッパー好きとしてはやりたかったんです。
ゾロとチョッパーのコンビが好きすぎて。
この二人はこう下心なく仲がいいといい。
そして船長が嫉妬すればいい。
お粗末さまでした!!
2010/05/23