「ルフィ」
名前を呼ばれて振り返ると、薄闇のバスルームに、外の光が入り込んでいた。
その光を背に、緑髪の男が立っている。
「ゾロっ」
すぐさまその影の主を呼ぶと、ようやくその名前が呼べた気がした。
「なにしてんだ?」
「酒こぼした」
水で洗い流した両手を振りながら、ルフィは笑う。
再会を喜ぶ宴の途中、ふといなくなった船長を探して、ゾロはサニー号を回っていたようだ。
「なぁ、ルフィ」
「なんだ?」
ゾロの声が物言いたげにルフィを呼ぶ。
そしてバスルームのドアを閉めてゾロが部屋に入ると、瞬間、外の音と隔離された空間になる。
「ルフィ」
「うん」
ゾロが何を言いたいのか、もう判っていた。
水で濡れたルフィの手を、ゾロは全く気にも留めずにそのまま引いて、抱きすくめる。
「…ルフィ」
「…うん」
あの低い声で名前を呼ばれる度に、ルフィの中で何かが満たされる気がした。
「……やっと、会えたな」
「…うん」
「おれがどれだけ待ったと思ってんだ」
「お互い様だ」
「船長命令だからだ」
「まぁ、お互い様だ」
「このやろ」
「ししししししっ」
「それに、おれの知らないとこでこんな傷作ってきやがって」
赤い服の下、覗いた大きな傷跡に、ゾロの指先が触れる。
ルフィは一瞬、言葉に詰まった。
喉が一度だけ鳴ると、仕様のない顔で、笑って見せた。
二年前には考えられないような、色を孕んだ顔で。
「これは、おれのわがままだからな。ゾロに怒られてもしょうがねぇ」
「…その傷のことは、聞いた」
ゾロが言葉を濁す。
それを見計らったように、ルフィは張りのある声で返した。
「それに、傷作ったのはお互い様だぞ。なんだこれ」
ルフィはむくれ顔でゾロの右目を指の腹でなぞる。
上に走る、大きな傷。
「ゾロは、おれの知らないところで傷だらけになるばっかだ」
「そりゃお前だろうが」
背に回るゾロの腕に力が入る。
知らない間に抱きすくめられる力の強さが変わっている気がして、ルフィはむず痒かった。
「おれは船長だからな」
「…そうか」
まるで自分に言い聞かせるように、ルフィはゾロに返した。
それを言われると、ゾロはそう応えるしかなくなる。
「でも……」
「ん?」
ルフィの声が、少しだけ震えた。
ゾロの背中を掴む両手に、力が篭る。
「……会いたかったぞ」
「あぁ…わかってる」
「ぎゅってして…欲しかったんだぞ」
「わかってるよ」
自然とルフィの目尻に涙が浮かんだ。
「なんだよ、二年経っても泣き虫は変わらねぇな」
「そんなことねぇよ!」
ゾロの腕の中から身を引いて、ルフィは噛み付くように言った。
「ちょっと安心した」
しかし、抱きすくめられる腕の上から、安堵のようなそんな声で囁かれると、毒気など浮かぼう筈もない。
そんな顔で、そんなことを言うのはずるいと、正直そう思った。
「今ぎゅってしてやるから、泣くな」
涙の浮かぶ目尻を唇で撫でて、ゾロは囁く。
唇が頬をなぞって、そのまま柔らかく呼吸を奪った。
触れるだけ。何度も。
温度を確かめるようなそんなキスを落とす。
そのたびに身体を抱きすくめる腕に力が篭る。
「…っ」
少しだけ、色の入った口付けをした。
すると、一度着けた火をごまかすことはできそうにもなかった。
何度か触れて、舌先を誘い出し、呼吸を乱すように奪う。
すると、抱きすくめていた腕が背筋を辿って腰の下から背中に侵入する。
首筋を舐めて、喉の血管が流れる部分に、ちくりと痛みが走ると、ルフィは我に返ったように、身体を引いた。
ゾロの背中に回していた腕が、今度は胸元を押しやる。
その身体を拒むように。
「だめだ」
俯いた言葉は、重たく響いた。
「今日は、だめだ」
「ルフィ?」
「今日は、みんなと一緒にいる日なんだ。独り占めはできねぇ」
意を決して持ち上げたルフィの表情は、しょうがなしに笑っていた。
「おれは、船長だからな」
あの顔で、笑う。
「だから、明日な」
そういって、ルフィはゾロの腕を柔らかく解くと、さっさとバスルームから出て行った。
軽い足音が廊下に響いて、甲板に消えていく。
「明日…って、もう出航じゃねぇかよ」
その背中を見送って、ゾロは苦々しく呟いた。
それから、小さく苦笑いをこしらえて、ゾロもバスルームを出る。
ゾロの深いため息と一緒に、照明が落ちた。
end.
合流直後妄想でした!!
ゾロにだけは、あの頃の痛みの片鱗を見せて欲しいという、そんな妄想。
仲間集合の日は言わずもがな宴でしょうから、船長さんはみんなの船長さんでなくてはいけない。
ここでゾロを自分が独り占めするのはあかん、という発想なのです。
はずい!かゆい!!!
すみません!!!!
お粗末さまでした!
2010/10/02