「ゾーロ」
呼ばれて視線をやると、極上の笑顔を浮かべた船長がゾロを手招きしていた。
それだけでなにを求められているか理解し、素早く手すりから身を起こした。
「ちょっと借りるなー」
甲板で再会を喜び合う仲間達に一声かけて、二人は展望室に足を向ける。
入り口にはこれ見よがしに"邪魔すんな"と走り書きして、夜の星が見える場所に二人して消える。
閉じられた扉の中は外界と隔離されたように、まるで胡乱な闇が蹲っていた。
その部屋の端で睦言を囁き合うように蠢く二つの影。
それが言葉ではなく触れ合う口付けの音で部屋を満たすのは時間の問題だった。
「…っ、んっ…」
折り重なるような二つの影は離れることを知らないように、舌先を絡め角度を変えて何度も何度も口付ける。
ゾロの膝の上に跨るようにして覆いかぶさったルフィは、緑の髪を両手で捕らえて離さない。
「…っぁ…、は、ぁ……ん……」
零れ落ちる水音に徐々に柔らかな声が滲み始める。
触れたり離れたり、まるで遊んでいるかのように繰り返されるキスの雨がいつまでも続いていた。
「…っ、ルフィ…」
呼吸もままならないほどのキスに、ふとゾロが声を上げる。
それでもルフィは口付けを止めず、制止しようとするゾロの手を無視してその唇を吸った。
「…ルフィ…!」
さすがに悲鳴が上がる。
そこでようやく口付けをやめて、さも心外だという顔でルフィはゾロの緑の視線を睨んだ。
「なんだ?」
「なんだじゃねぇ、ちょっと待てって、急にどうした?」
「ゾロはしたくねぇのか?」
「…そうじゃねぇよ、お前なんか変だろ」
「変じゃねぇよ。続きしよう」
ともすれば唇を欲しがる船長に戸惑いが隠せないゾロは見下ろしてくる黒い眼を訝しんで射抜くが、当の船長はそんなことはどうでもいいと続きをせがんだ。
「……なんかお前怒ってねぇか?」
ルフィの絡んでくる腕を捕まえると、ゾロは心当たりをついに口にする。
ルフィは少しだけ考えるように視線を天井に持って行き、うーんと一言唸る。
それから思い付いたと眼を閃かせてゾロの左眼に口付けた。
「ゾロがおれの知らないところで傷作ってきたからかな」
べろり、とその左眼の傷を、ルフィはなんの躊躇いもなく舐めた。
「………お前だってそうだろ」
大きく十字を刻む胸の傷に、ゾロもまた手を這わせる。
「誰だって自分のもんに傷が付いたら怒るだろ」
堂々と、おれのものだと言い張る船長に、苦笑いが禁じえない。
「…あぁそうでしたね」
ゾロは確かにルフィのものだけれど、ルフィはゾロのものではないのだから。
ルフィはルフィ自身以外、誰のものでもない。誰のもにもならない。
そんなことは判りきっていて、それで自分はルフィの所有物であると自負して、今ここにいるというのに、改めて堂々と宣言されると、妙に歯がゆいものである。
反論の余地はなかった。
また唇が合わさって今度は熱を煽るように舌先で挑発する。
その間に船長の手がゾロの胸の傷をなぞり、下帯にたどり着くと、そのまま躊躇なく下肢を弄り、足の間に指を這わせて徐々に熱を持ち始めたそれに触れた。
「…っ、ルフィ…!」
指先で遊ぶように何度か触れて、外の空気を吸わせる様に服の下から引き摺り出す。
何度か扱いて卑猥な水音が混じる様になる頃、ようやく唇が離れて視線がぶつかった。
「…おいっ…」
静止の声をルフィは挑発的な笑みでかき消した。
自らの唇を舐める赤い舌先に色を乗せて、船長は鬱血した闇の中から妖艶な姿でゾロを見下ろしている。
まるで征服されているように感じるその姿は、とても二年前のあどけなさなど感じさせない。
先程、甲板に居た時など空白の二年の時など感じさせないような幼さを残していたというのに、この豹変ぶりはさすがに詐欺ではないだろうか。
「…なぁ、ゾロも触って」
空いている方の手でゾロの左手を取ると、ルフィはその手のひらに唇を落として、わざと熱っぽい声をそこに注ぐ。
そして焦らす様な仕草で自分の中心にその手を持って行った。
既に熱を持ち勃ち上がったそれは、闇に紛れながら確かな存在感を持ってそこにあった。
するとルフィは自ら下を脱ぐと適当に放り出し、直にその熱を外気に晒す。
お互いを高め合うように触れ合わせては、敏感な場所を刺激し合う。
少しずつ乱れてくる呼吸の合間に口付けを再開しては、また離れ難いと吐息を交換した。
「…なぁ、触って」
口付けの合間にもう一度繰り返し、ルフィはゾロの上で膝立ちになり腰を浮かせると、その手を後ろへ持って行く。
「…ゾロ」
熱っぽく名前を呼んで、ゾロの指先を後孔へ充てがうと、そこをまさぐるように促した。
「…っ、」
その間にも、ルフィは自らの熱とゾロの熱を触れ合わせては弄んで体温を昂ぶらせる。
今まで感じたことのない様な色香にゾロは思わず舌打ちをした。
これがルフィか、と。
色に濡れた視線は挑発的にゾロの全身を捕え、赤い唇で熱を煽る。直接的な刺激はその無骨な指先で。
ルフィを纏う何もかもが、この場に相応しく色に塗れた表情でゾロを追い立てていた。
「…っ、んっ…」
触れた後孔を円を描く様になぞり、ゆっくりと指先を挿し込むと、圧迫感からか声が漏れ出した。
そのまま掻き回し、一際声音を上げて乱れる場所を刺激してやると、水音の上から悲鳴が落ちる。
以前身体を繋げたときとなにも変わらない。
高らかに悲鳴を上げる場所も、落ちる声も、ゾロ自身に触れる指先も。
それなのに、なにがこんなにルフィを変えたのか計り知れない。
その正体不明の闇が、ゾロの気持ちをざわめかせる。
見たこともない濡れた顔で、すっかり色と欲を知った顔で、ゾロを誘惑するこの男は、本当に自分の船長だったろうか、と。
「…ゾロ?」
そんな不安に苛まれて、思わず視線を外すと、訝しんだルフィがこちらを呼んだ。
あのあどけない顔で、あの頃となにも変わらない声で。
「…いや、なんでもねぇ」
それにどこか含みのあるような笑みを唇の端に乗せて笑った船長は、そのまま散々口付けて濡れたゾロの唇を指先でなぞると、後孔を弄んでいたゾロの手を制止する。
ゆっくりそれを外すと、そのまま自分でゾロ自身を宛がい、ひとつ息を呑んでゆっくりと腰を下ろした。
「…んあっ…あ、あっ…ぁ、…」
三度、息を吐いてから一番深くまで迎え入れて完全にゾロの上に座り込む。
「…んっ、んっ…、ん、…ぁっ…」
それから一定のリズムで腰を前後に揺すり始め、自分の中の良い場所とゾロの熱とをこすり合わせた。
その眩暈がしそうな痴態をどこか他人事の様に眺めていたゾロの視線を感じて、ルフィの涙と色とを滲ませた視線と真っ向からぶつかる。
「…なぁ、二年間どうしてた?」
ふと、荒く吐かれる息の合間からそんなことを訊ねられた。
「…どう…って…、なにがだ?」
「だからさ、セックス」
「…は?」
「ゾロはさ、鷹の目、の、とこに、いたんだ、ろ?」
吐く息が断続的で、言葉も途切れ途切れになる。
「だから、一人じゃなくて、誰かと、してたんかな、って」
あのゴースト女とかいただろ、と。
「…興味ねぇよ」
しかしルフィの戯れをゾロはばっさりと切り捨てた。
それが例え睦言の延長線であったとしても、聴いていて快いものでは無い。
「お前以外として、なんの意味があるんだよ」
噛み付く様に答えてやると、ルフィの汗の浮かんだ顔が、嬉しそうに笑った。
その様が更にゾロの中の欲に火をつける。
「…お前はどうなんだよ?」
「…おれ?おれは、一人で、シてた」
ルフィはひとつ大きく息を吐いた。
「こうやって、ゾロのやらしい顔思い浮かべながら一人でシてた」
そう言って揺さぶる腰を休めたと思ったら、今度は自らの熱に指を絡めて少し荒っぽく、見せつけるように慰めてみせた。
そして先端から溢れてくる先走りで指先を汚しながら、背筋を走る快感に歯を食いしばる。
思わずゾロが自分の中の劣情に表情を歪めると、無意識の内にルフィの中に収まっていた自分自身が反応してかさを増した。
「…ぅ…っあ、でっかく…、すんな…!」
思い出したように腹の中の確かな熱にルフィは悲鳴を上げた。
「お前が、考えなしに煽るからだろ…っ!」
今までされるがままに黙っていたゾロだったが、とうとう線が一本切れてしまった。
背中を預けていた身体を起こすと、腹の上で良い様に踊っていたルフィの身体を抱え直し、その背中を床に押し付けると、獣を思わせる荒々しさで穿つ。
「…あっ、あっ…っぅあ…!ゾ、ロ…!」
悲鳴は届いたけれど無視した。
ここまで大人しくしてやっていたのだ。
もう好きにしても良いだろう。
一息吐いて、遠慮なくその熱を貪った。
「あ、…ぁ…ん…あ、は…ぁっ!」
途切れ途切れの声の合間からは甘ったるいものが混じり始める。
歪む表情を腕で隠したルフィの胸元には、赤い上衣の間から大きな傷跡が見えた。
その傷にゾロはいない。
それは自分の左眼と同じであったのだが、それよりももっと大きく強く、ルフィとゾロを隔絶していた時間を主張する。
何よりも、その二年という時間がもたらした正体不明の闇が気に入らない。
一体何がこの男を変えたのかと。
こうやって身体を繋いだとしても、ルフィが魅せる表情はまるでゾロの知らない他人だ。
誰よりも何よりも側に居たはずなのに、いざ気付けばこんなにも遠い。
こんな不安が今まであったろうか。
本当は、ルフィの居場所が知れたときに誰よりも早くすぐにでも傍に行きたかった。
抱きしめて口付けて、思い切り甘やかして、全てを許して分かち合いたかった。
けれどそれをルフィ自身が禁じたのだ。
ゾロは、ルフィのものだと自負するのだから、その命令に従わないわけにはいかなかった。
なのに、この時間の溝が隔てた距離は想像以上に深かったというのだろうか。
「…っ、ルフィ…!」
もう一度名前を呼ぶと、組み敷いたその身体は痛みと悦楽で悲鳴を上げているというのに、なんとも満足そうに笑うのだ。
さもその声に安心するかのように。
「…ルフィ…っ」
擦り切れそうな声が届くと、涙を滲ませた表情を無理やり笑わせて、柔らかいあの声で、ルフィは小さく返事をしてみせた。
瞬間、ゾロの押し込めていた気持ちと欲望が弾けて、ルフィの身体の中を白く汚す。
その熱さに息を呑んで、繋がった場所がきゅうと締め付けると、ルフィもまた吐き出した自らのもので腹を汚した。
薄闇の中を荒い呼吸が二つ、狭い部屋の中を反響するように転がって行く。
脱力した身体をルフィの上に預けて、ゾロはその体温を感じた。
眼を閉じれば、生きている音が静かに響いてくる。
組み敷かれていたルフィがふと、腕を伸ばして、ゾロの頭を抱えた。
抱き締めた腕を緑の髪に絡めて、ルフィはゾロの額にひとつ口付けを落とし、もう一度抱きしめなおした。
そしてゾロの耳元に囁くような、ともすれば懺悔のような声で呟いた。
「…おれな、一回だけ、レイリーに頼んでみたことがあったんだ」
何を、とは聞かなかった。
他人のような顔を見せる船長は、とてもじゃないが、ゾロの知るルフィだけでは形成されないことをよく理解していた。
「…レイリーもな、同情でもいいかって、そう言ってた」
ルフィの声は平坦なままだ。
「…それでもいいって、おれは言ったんだ」
ルフィの傷のある胸の上で、ゾロは目を閉じた。
正体不明だった闇が、確かな形をもってして浮かび上がってきた。
「…でもな、」
と、ルフィが声を下げた。
「…おれ、できなかったんだ。…頼んだのはおれだし、受け入れたのもおれだったんだけどな、いざってなったら、できなかった」
後悔ではない、確信のように、はっきりした声だった。
「おれも、ゾロじゃないとだめだ」
そこで顔を上げたゾロと、ルフィの視線がぶつかった。
まるで何もかもを受け入れてしまう海のように、柔らかく暖かい微笑みでゾロを抱きしめていたルフィは、とても二年前の少年ではない。
けれども、確かにそこにいる。
ゾロの知っているルフィだった。
「ごめんな」
ゾロの額にまたひとつ、口付けが降る。
「は、今更かよ」
ゾロの口元が歪んだ。
その陰で安堵した。
確かにあった闇の輪郭は、正体を表してみれば何も恐れるものではなかったのだ。
そこにあったのは、ただ時間という闇に隠れていただけの、何も変わらない変わりゆくものなのだから。
それでいいのだと、ルフィの笑顔を見て確信する。
そして腕の中の体温を感じて実感する。
もう一度肌と肌を触れ合わせて、腕の力を込めると、お互いの胸の傷が触れ合った。
それすら愛おしかった。
それで良かった。
もう一度、寄せるように口付けて、抱き締め合う。
二度とこの腕から離れないように。
「ゾロさ、もう勝手にどっか行くなよ」
「それはこっちのセリフだ。本当にうちの船長は世話が焼ける」
「しししししっ」
と、船長は、あどけなさと色香を併せ持ってゾロの腕の中で歯を見せて笑った。
GOD ODAが早くゾロルの再会逢瀬を描いてくれないので勝手に妄想しました。
時間軸とか軽やかに無視してます。
地味にシリアスエロです。
始終やってるのにあんまりエロく無いのはどうしてだろう。書き手の腕です。
船長がなんとなくというかビッチです。
申し訳ありません!
お粗末さまでした!
2011/02/22