「…でな、弟が本気にして涙目で追っかけてくるもんだから、もーおかしっくてさ」
くすねてきた上物を提供するから今回は見逃してくれ、と、共犯を求めたエースがキッチンでマルコに捕まったのが一刻ほど前。
本来なら見逃すはずはなかったのだが、エースが持っていた瓶の中に、この間賭けで負けてサッチに奪われたものと同じラベルを見付けて珍しく寛容さを見せたのが運の尽きだった。
不寝番に隠れるように後部甲板に出て、二人でよく晴れた夜の空を見ながらたわいもない話を繰り返す。
張りのあるエースの声がマルコの耳を通り過ぎる。
アルコールが回り始めると、自動的にエースは弟の話を始め、もう何度目になるか判らない自慢話を肴にマルコは上物の酒を煽った。
夜風に煽られて摂取したアルコール分で頬を赤らめたエースが上機嫌に酒瓶を振り回す。
その傍には空になった同じ瓶が何本も転がっていた。
あぁ、一本だけだと言ったはずなのに。
上等な酒で頭の芯が震える心地良い感覚を覚えながらマルコは思考の端でそう思う。
「なぁマルコ、聞いてる?」
曖昧な相槌を打つマルコに、エースは酔っ払いの顔を近付けて問い詰める。
「あぁ、聞いてるよい」
当のマルコも柔らかく笑って返してやるが、本当は話半分だった。
ただ上機嫌に弟の話をするエースを眺めている。
それが酷く心地良かった。
成熟を目の前にしたしなやかな肢体を惜しげもなく甲板に伸ばしたエースは、どこか倒錯的な色を持ってしてマルコの前に居座っている。
その様は微塵も警戒心を抱いてはいなかった。
ほんの少し前までは手負いの猫のように毛を逆立てて、鋭い爪のような威嚇を撒き散らしていた奴とは到底思えないような変貌ぶりである。
ふとそんなことを思い出して、マルコの唇の端が持ち上がる。
得意げに弟の話を口に乗せながら、無邪気に破顔するその様を強い酒と一緒に飲み込めば、この晩酌がただの付き合いから有意義なものに変わって行く様だと、ふと空の月に視線をやったマルコは思う。
「それからな、結局熊よりワニのほうが手っ取り早いとか言ってさ、泳げもしねぇのに川に入るんだぜ?何回おれが助けに行ったと思ってんのか」
高らかに話すエースの声が夜の風と一緒にマルコの側を通り過ぎる。手の中にある酒瓶の中身が夜の光で怪しく揺らめくのが見えた。
その瞬間、ちり、っとマルコの身体の奥で何かが焦げる音がする。
いや、本当はこの空気が焦げ付いたのかもしれない。
そんなことを自覚したと思ったら、ふと、その青い双眸を捉える黒い視線に気付く。
風に靡く夜と同じ色をした髪と、赤い頬、何か言いたそうな口元。
星と月が仲良く見守る中、マルコの側を赤黒い焦燥と衝動がほんの少しだけ走り抜けた。
「……エース、」
思わず、その名前を呼ぶ。
呼ばれた本人は更に力を込めてマルコの視線を押し返した。
その圧力に気負うことなく、マルコはエースの顔を覗き込むようにして、その距離を縮める。
呼吸の音が直に聞こえるくらい近づいて、その動きを止めた。
鼻の先をアルコールの匂いが掠める。
ここまで近付いて、マルコがこれからしようとしている行為が予測できないわけではないだろう。
それなのにエースは抵抗も拒絶もしなかった。
ただ何も言わず、表情も変えず、その視線を捕らえて離さなかった。
その唇がたった今、マルコの側を通り過ぎていった空気に触れて、微かに震える。
視線は外れない。
お互いに、射抜くように、拘束するように、逸らさなかった。
マルコは少しだけ顔の角度を変える。
エースの顎を捉えようと伸ばされたマルコの手は、触れる寸前でその動きを止めた。
そして更に距離を詰める。ゆっくりと。
まるでその縮まる距離をひとつひとつ確かめながら探り合うように。
そして本当に一瞬だけ、唇が触れ合った。
触れた、というよりは、唇を押し当てた、といったほうが妥当だろうか。
それだけの行為。
時間にしては本当にたった一瞬。
しかし体感した時間はエースの瞳を捉えたときから何時間も見詰め合っていたような錯覚を起こさせる。
すぐさま唇は離れて、また視線がぶつかる。
拒絶する時間は充分にあった。
それを誘い出す素振りもしてみせた。
しかし、エースはそれをしなかった。
あろうことかあっさりと受け入れて、視線で射抜いて見せた。
その様に思わず言葉を失ったのは、マルコの方だった。
「…嫌がらねぇのかい?」
「なんで?」
「……おれが聞きたいよい」
「マルコこそ、なんで?」
「……したかったからだよい」
「じゃ、おれもそれだ」
正解を見つけたと、エースの唇の端が持ち上がる。
「したかったんだ、おれも、多分」
「…そうかい」
無邪気に言ってのけるエースに、マルコは思わずため息を吐く。
そして、もう一度視線が合うと、額を寄せ合ってまるで秘密を囁くように笑い合った。
じれったい感じやら寸止め的なものが大好きでして。
おっさんのほうがもだもだしてたらいいんじゃないかな、という妄想です。
じれったいマルエ良いですよね!!
純情なおっさんが大好きで!!
世の中の酸いも甘いもかみ分けたくせに、変なところ純情なおっさんとか大好きで!!!
他人にはめっちゃ飄々としてて酷いこともさらっと言うくせに、自分のこととなると、ましてや自分の本命のこととなると急に奥手になって純情パインだといい!!!
おっさんに夢を見まくっています。
後悔はないです。
2011/03/22