マルコ誕


「あー、こんなところにいやがったよい」
「…あ」

まるで隠れるように、後部甲板の手すりに肘を預けて、夜の海を眺めながら一人酒瓶を傾けるエースを、マルコはうんざりしたような顔で見つけた。

「お前、一番に祝いに来たと思ったら、急に姿くらましやがって」

日付が変わったと同時に乾杯の声が響き渡り、我らが一番隊隊長の生まれた日を祝う声で、白鯨が一杯になる。
そして一番最初に、あの笑顔で祝いの言葉をくれたエースが、しばらくすると、姿が見えなかった。
マルコの下にひっきりなしに酌に来る隊員達が、いい具合に酔っ払ってきた頃、マルコはようやく宴から中座するタイミングを得る。
そして、あの黒髪を捜して、モビーディックを駆け回ったのだった。

「お前、なんだってこんなところにいるんだよい」
「こんな…って、あんたこそ。今日の主役がこんなところにいたらだめだろ、ほら、戻れよ」
「お前もだよい」
「おれはいいよ」
「おれの誕生日が祝えねぇってのかい」
「そうじゃねぇよ。それに、おれはもう祝ったじゃねぇか」

エースの薄い笑顔がマルコに向けられる。
これは、この笑顔は拒絶だった。
下手な作り笑い。
マルコは、こんな顔を見たいわけではなかった。

「エース、お前、何意地張ってんだい」
「……っ」

エースは気まずそうにマルコから視線を外す。
そのまま、海に視線を戻して、酒瓶に口をつける。

「……ごめん、別に祝いたくないわけじゃねぇんだよ。ただ…」
「ただ?」
「おれは、なんにもできねぇな、って」
「何がだい?」
「おれ、サッチみたいに気の利いた酒を用意できるわけでもねぇし、ビスタみたいに歌が唄える訳でもねぇ。イゾウみたいに躍ってやることもできねぇし、親父みたいにあんたと大酒飲めるわけじゃねぇし…」

ため息のような言葉が夜の海を撫でた。

「おれ、なんにも、用意できなかった。あんたに何を貰ってもらったらいいか、わかんなかった。…ごめん、マルコ」

静かにそれを聞いていたマルコは、硬い声でエースを呼ぶ。

「エース」

マルコの呼び声で、俯いていたエースの顔が上がる。
エースの隣に立ち、手すりに凭れてマルコは言った。

「お前、おれの好きなもの、知ってるかい?」
「親父と酒」
「…即答すんなよい」
「間違ってねぇだろ」
「…まぁな」

そして、エースが持っていた酒瓶を奪って、一口煽る。
それからそれを押し返して、

「もうひとつあるよい」
「もうひとつ?」
「お前だよい」
「は?」
「親父と酒と、お前。全部揃ってなきゃ、祝いになんねぇだろ?」
「……ごめん」
「ほら、戻るぞ」
「…うん」

マルコは手すりから背中を離すと、船首へ向かおうと足を向ける。
その背中を一瞬だけ見つめて、エースはマルコを呼んだ。
振り返るマルコに、エースは明瞭な声で告げる。

「なぁ、あんたが貰ってくれるってんなら、おれやるよ」
「は?」
今度は、マルコが訝しむ番だった。

「おれは、こんなもんしか持ってないから」

そう言ってエースはマルコの下に駆け寄ると、掠めるように柔らかく唇を重ねた。

「だから、おれをやる。なんでもしてやるぜ?」

嬉しいだろ、と、笑って見せた口元に、悪戯好きの色が覗く。
そんなエースの顔を、マルコはわざとらしく見つめて、少し沈黙する。

「…なんでも、するって?」
「今日一日な」
「そうかい」

にやりと、あの魅惑的な口元が満足げに笑った。
その瞬間、エースはしまったと思う。
このパターンはよくない。非常によくない。

「じゃぁ、」

ぐい、と腕を引かれて、エースの身体が傾く。
それを抱き止めるようにしてマルコの腕が回されると、

「……、…………、……」

そっと小声で耳打ちされた言葉に、一瞬エースは理解できない言葉が並んでいた気がして、眉をひそめる。
しかし、ソレの意味が正しく脳に届けられると、即座に耳まで赤くなった。

「……なんてことも、やってくれるかい?」

見ればマルコの頬が色を潜めてにやりと笑う。
言葉が紡げず、何度か口を開け閉めして、マルコを指差した。
しかし、エースは意を決したようにその指が握りこぶしに変わると、叫んでいた。

「あぁ、やってやる!男に二言はねぇ!」
「そうかい」

満足そうに頬を歪めたマルコは、腕を広げて言う。

「じゃ、頼むよい」
「こ、ここで?」
「二言はねぇんだろい?」
「う」

笑う口元が憎たらしい。

「判った二言はねぇ!よっしゃそこ座れ!!」

酒瓶を床に放り出し、エースは怒鳴る。
大人しくマルコはその場に腰を下ろした。
次はどう出てくるのか楽しみで仕方がないという顔で、事の成り行きを見ている。

そして同じくエースもその場に膝を着く。

急に周りの空気の重力が増した。
それだけで、エースの心臓の音は、冗談のようなボリュームに跳ね上がる。
ただし、それに気付くのはエース本人と、目の前のこの男だけ。
これから自分がしなければならい行為を思い、一度、喉をごくりと鳴らす。
意を決して、マルコに圧し掛かるように体重をかけて、マルコの肩に右手をやると数秒。

「………」
「…………」
「………………」
「…………………」

見詰め合って、沈黙。

「ぶっ」

しかして、張り詰めた空気の糸は、マルコの噴き出した声で見事に一刀両断されたのだった。
目元を手で覆い、盛大に笑い出したマルコに、エースはなんとも声をかけられなかった。

「あー、悪い、おれが悪かった。まさか本当にしてくれるとはな」

担がれた。
エースは真剣にそう思った。
ばつの悪い顔で二の句が告げないエースは、憎々しげに爆笑するマルコを見守ることしかできない。
気恥ずかしさで全身が震えた。
真っ赤だった頬は更に増して、耳の裏まで完全に同じ色で染まる。
目の前で笑うこの男を、どうしてくれようかと思案していた時。
くしゃくしゃと黒髪を撫で回された。
それだけで怒る気が薄れるのだから、全く持ってこの男はずるいと思う。
そして、目尻に涙を浮かべて苦笑いするマルコが目に入った。
なんだかへそを曲げていた自分が急にバカらしくなってしまう。

「戻るか」

今度はエースがそう言った。
その言葉に満足したのか、マルコの口元が柔らかく笑った。
立ち上がったマルコがエースの手を引いて助け起こす。
床に転がった酒瓶をエースに渡すと、空いたほうのエースの手を握ってマルコは歩き出した。
その後姿を追いかけるように、エースは続いた。
そして数歩歩いたときに、何か思い出したように立ち止まった。

「あぁそうだ」

手を引かれていたエースはそのままマルコの背中にぶち当たる。

「なんだ、どうしたんだよ?」

ぶつかった鼻が痛かった。
抗議の声を上げると、マルコは急に振り返ってエースの身体を引き寄せると、

「続きは宴の後にするよい」

耳元で囁いて、不意打ちで唇を奪った。


end.



マルコーーーー誕生日おめでとーーーーーー!!!!!!
誕生日にbotたちの会話があまりにも可愛かったので、ついもやっと妄想してしまった…。
ほんとは…手ブロの方で…なんかする気だったんですが…。
いや、まぁ、本業の方がいいだろう、と思い、急遽誕生日小話。
あぁ、かゆい。
囁いた言葉はご想像にお任せします。
なんか卑猥な言葉です。セクハラですね。←おい

こんなんですみません!!!
でも不死鳥さま誕生日おめでとーーーーーー!!!
大好き愛してる!!!

お粗末さまでした!!!
2010/10/05