人目が気になるお年頃



「アンーーー!!!」

平和なはずのモビーディック号に、珍しく白ひげ海賊団一番隊隊長の怒号が響いた。
廊下でその声を聞いたサッチは、何事だと振り返る。
そして、後ろから迫る足音に、次に自分に降りかかるであろう言葉を予想した。

「サッチ、アン見なかったかい?」

めったに怒りをあらわにしないマルコが、肩で息をしながら走ってきたところを、サッチは軽く返した。

「いや、見てないぜー」
「ったく、どこいきやがったー!!」
「……ほどほどになー」

ひらひらと手を振って応えたサッチのポーカーフェイスはほぼ完璧であった。

「…もう行ったぞ、アン」

マルコが立ち去ってから。
誰もいないと思っていた壁にサッチが話しかけると。

「うん、ありがとサッチ。助かったよ」

サッチが背中越しに隠していた樽の陰から、アンがひょっこり顔を出した。

「マルコをあそこまで怒らせることができるのは、この船じゃお前だけだよ」

サッチの苦笑いとも含み笑いとも取れる口調が、樽の陰から這い出してくるアンに降る。

「そんなことないでしょ、サッチだってよく怒らせるじゃない」
「あれはな、じゃれてるってんだ」
「そうなの?」
「そうなの」
「ふーん、よくわかんない」
「ま、そのうちわかるさ」

サッチは、アンの黒髪をくしゃっと撫でる。

「で、今日は何やらかしたんだ?」
「あのね、マルコが上着着ろってうるさいの」
「はぁ?」
「お腹が冷えるとか、肩が冷えるとかって言うのよ。この辺りはあったかいから、そんな心配ないのにねぇ」

アンは唇を尖らせて、樽の上に飛び乗り、足をぱたぱたと動かした。

「それに上着着ちゃったら隠れちゃうじゃない、刺青」

その白い背中に大きく描かれる、白ひげのマーク。
先日入れたばかりのこの刺青を、アンは見せびらかせたいらしい。

「……あぁ、お前、それ入れた日、上半身裸で船の中、走り回っただろ」
「せっかく入れたのよ、皆に見てもらって何がいけないの?」
「それだよ」
「なにが?」
「お前、それでなくても肌出してんだから、ちょっとは隠せってことだよ」

アンの今の服装を見やる。
ビキニ一枚と、ベルトの巻かれたショートパンツ、トレードマークのテンガロンハット。足元はブーツ。以上。
とてもじゃないが、そこらへんの男だったら、目のやり場に困る出で立ちである。

「マルコも気が気じゃねぇんだろうな」
「え?」
「いや、なんでもねぇ。アンもちょっとはマルコの言うこと聞いてやれ」
「い・や」
「そんなこと言ってるから、マルコのハゲが増えるんだよ」
「え、マルコってやっぱりそうなの!?」
「ん、そうか、アンは知らなかったかー」

楽しいおもちゃを見つけたような顔で、にや、とサッチの口が笑う。

「後頭部がな、救いようがなくなったから、まだなんとか生き残ってた前髪だけ残して今の髪型になったんだよ」

笑えるよなー。と、サッチがあっけらかんと笑った。
その瞬間、


ぐわしっ。


サッチのリーゼントが掴まれる。
背後に猛烈な殺気を感じた。

「…なに大ぼら吹き込んでんだ、サッチ…」
「……は、はははは、やぁ、マルコ、ご機嫌いかが?」
「誰かさんのせいで最悪だ」

覇気を垣間見せる怒気に、さすがのサッチも血の気が引いた。

「サッチ、さっきお前、アンは見てないって言ったよな…」

マルコの視線が、傍のアンに刺さる。
その視線で、びくっとアンの肩が震えた。

「そりゃ、俺はアンの味方だからな」

すっとぼけた表情でごまかすサッチは、わざとマルコの怒りに油を注ぐ。

「アン、今度こそ逃がさねぇぞ」

怒りを孕んだ低音でマルコは言った。
しかし、それでスイッチが入ったらしく、即座に樽から飛び降りたアンは、すっかり戦闘態勢に入ったのだった。
その態度に、マルコもますます本気になる。

「今日という今日は覚悟しろよい…」
「覚悟すんのはそっちのほうだよ。絶対負けないから!」

忘れてはいけないのだが、この二人はただ、上着を着るか着ないかで揉めているだけである。

「あーもー、頼むから向こうでやってくれ」

サッチがさっさと二人を甲板に追いやった。
こんなところであいつらに本気で揉められたらひとたまりもない。
ぎりぎりと二人は何やら言い争いをしながら甲板に向かう。
サッチはそれを見送って、後頭部を掻いた。

「はぁ、マルコも素直に言やいいんだよ。他の男に見せたくないから着込めって」

付き合いきれねぇなぁ。

サッチが苦笑いした、その直後。

「マルコ隊長!ちょ、やめてください!何する気ですか!!」
「アン!お前もちょっと待て!それは駄目だ!」
「火事!!甲板が火事だ!!」
「誰か親父呼んで来い!!」
「消火班ーー!!!」
「サッチ隊長ーー!!」

クルーたちの盛大な呼び声で、さすがのサッチも、こめかみが震えた。




結局。
ボヤ騒ぎを起こしたマルコとアンは、たっぷり親父に怒られ。
そしてアンは折衷案でホルターネック着用を義務付けられたとさ。




めでたしめでたし。




「……肩も隠せよい」
「これ、胸ちっちゃいのばれちゃうじゃん」
「お前の胸が小さいのなんて皆知ってるよい」
「い、言っていいことと悪いことがあるでしょ!!」
「なら隠しとけよい」
「マルコのばかー!!!」




…めでたしめでたし?





友人に献上したマルアンです。
初めて書いた上に、勢いで書いたので、いろいろおかしいところがありますが、笑って許してくださ……。
アンちゃんをどう動かしたものか…。掴みきれていない…。

マルコの口調がところどころいつもと違うのは若干理由がありまして。
マルコはマジギレた時は標準語に戻る、というのが個人的萌えでして。
いつものあの飄々とした口調はわざとで、キレたときにホントの口調が戻る、というのがマイ設定オンザ萌えー。←意味不明

お粗末さまでした!

2010/05/31

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