白蝶貝とスパイダー
縺れ合う弱い声が揺れる闇の間に混じる。
とても聞き取れないような声音で囁き合う声は、淫蕩な音を纏って部屋に尾を引いていた。
「…んっ…っ…ん、…あ…っ…は…ぁ…っ」
緩やかに動いていた人影が徐々に動きを早める。
そのたびに一際高い声が上がった。
「あ…あぁ…っ」
「……エース、」
折り重なる身体の上から、マルコは熱っぽい声でそっと名前を呼ぶ。
「…中…凄い気持ち良いよい」
耳元で囁く声に、エースはしてやったり顔で薄く笑う。目尻に浮かんでいた涙が一筋、赤く染まった頬を滑った。
その瞬間、エースの身体の奥を貫いていたものがまた質量を増した。
「あ…っ…でっかくしてんじゃねぇ…っ」
「可愛い顔するからだろい」
「おれのせいかよ…っ」
「他に何があんだよい?」
マルコは挑発的に言葉を投げては、身体を抱え直して、動きを再開する。
「っ…ああぁあっ……ぁっ…」
悲鳴が上がるが動きは止めない。
寧ろ激しさを増して影が蠢いた。
縺れる声が震えた。
打ち込まれた楔の形がはっきりとわかるくらい、自分の中で暴れるそれを、内壁で締め付ける。
汗の滲むマルコの表情が歪んだ。
あの魅惑的な唇から漏れだす息に、エースは終わりが近いことを悟る。
「…あっ、…なか…出すな…っ!」
しかし、エースの悲鳴は聞き届けられず、小さく声を上げてマルコは最奥で果てた。
自分の奥に広がる言いようのない濡れた感覚で、同時にエースの腹の下で燻っていた熱も爆ぜる。
揺れる二つの身体が一気に一番上まで昇るような感覚。張り詰めた糸が弛緩する、そんなとても夢見心地な感覚が全身を襲う。
その余韻に、二人ともが目を閉じて、解ける快感を追いかけていた。
「…あー…」
喉の奥から息を吐き出すと、エースは全身を力を抜いて、身体をベッドに預けた。
無意識に汗で頬に張り付いた髪を梳く。
「…中に出すな…って言ってんのに…」
抗議の声も綺麗に流して、マルコはゆっくりエースから身体を退いた。
「ちゃんと後始末はしてやるよい」
「そういうことじゃねぇんだって」
エースが不機嫌そうにマルコに蹴りを入れる。
その足首をあっさり捕まえると、マルコはそのまま自分の腰の向こうに持って行った。
「ほら、脚開けよい」
先ほどまで散々、自身で貪っていた箇所にマルコは指を押し当てる。
あっさりそれを飲み込んで、中を掻き回すと、先程の残滓が溢れ出た。
「……っ」
するとまたエースの喉から息が漏れた。
その反応の良さに思わずマルコは唇の端で笑う。
「あぁ…お前ここ好きだったよな」
「…やめ…っろ…って…ぇ」
同じ動きを繰り返ししてやると、エースはマルコの腕にしがみついて抗議した。
嫌な水音が部屋の中に静かに広がる。
「そのままにしてたら腹壊すよい」
「…判って…る…けど…っ」
もどかしさに首を振る。
嫌がる割には、本気で抵抗はしない。
そのはずだ。
差し込まれた指先に反応して、エースの中心もまた熱を帯びはじめ、また蜜を滴らせる。
まさぐる指先には先程エースの中に残してきた白い残滓が絡み付き、こぼれてシーツに染みを作った。
わざと刺激の少ない場所に触れたと思えば、すかさず一番声をあげる場所に指を立て、じりじりと追い上げる。
その都度こぼれる甘い声には、とても正気では聞いていられないような色気が混じる。
目尻に浮かんだ涙と、頬に走る熱に浮かされた表情は、劣情をそそらせるには充分な効果を発揮した。
マルコは乾いた唇をその舌先で舐めた。
そして、ぐ、と身体を起こして、エースの身体を引き寄せる。
それだけで、次の行動を予想したのだろう。
「や…だ、って!もう無理だってば!挿れるのなし!」
思いっきり腕を伸ばされ、身体を押しやられる。
「どんだけ元気なんだよおっさん!」
「お前な……」
先ほどまであれだけの声を出していたとは思えない物言いに、マルコも思わずため息が漏れる。
「しょうがないよい」
マルコはベッドに背を預けていたエースの身体をひょいと持ち上げ、太股の上に乗せる。
「…なに…っ?」
次に何をされるのか予想がつかなくて、不安そうに声を出す。
「ちょっと手ぇ貸せよい」
エースの手を掴み、そのまま、マルコは充分に熱を持った自分の中心に持って行く。
身体を密着させて、互いの性器同士が触れ合うように握らせて、その上からマルコの手が包んだ。
「…ちょっ…」
「自分でするみたいにしてみろい」
エースの手の上から握られているので振りほどけない。
「…上手に出来たら、もっとしてやるよい」
耳元で囁く声は、ずくりとエースの腹の下の劣情を刺激する。
ゆるゆると頼りなさげに持て余していた指先が、意志を持って愛撫を始める。
さっきよりも声も視線も近い。
腹の下で徐々に攻め上がってくる熱が、そのまま脳を貫いてしまいそうな錯覚に陥る。
向かい合って、額が触れそうなくらい近い場所で、お互いの痴態を見せ付け合う。
何か倒錯的で卑猥な現状を、どこか遠いところで見詰めているような感覚に襲われる。
しかしそれもつかの間で、追い上げる指先に息は乱れて、また一番上が見えはじめた。
視界が滲んで、声が震える。
お互いの乱れた息が重なって、淀んだ空気に爪を立てた。
「…も…むり…だって…」
あっさりと限界を告げるも、少しきつめに握られて、痛みと快感がないまぜになった声が喉から落ちた。
「…まだ…だめだよい」
まだ我慢しろい、と底から揺するような低音で囁く。
「…でも…っ」
「…もう少し…」
暴走しそうな熱をぎりぎりの場所で押さえつけて、マルコは囁いた。
触れ合いそうなくらい側で唇を動かすと、まるでそれが合図だったかのように、エースがマルコの唇に噛み付いた。
甘く、舐めるように柔らかく食み、なぞって塞ぐ。
「ん……っんん…ふ…ぁ……っ」
柔らかい血袋は体温より熱く感じ、夢中で唇を合わせた。
それで気を散らそうというかのように。
舌先を絡め始め、唇の端から溢れ出る唾液と甘い声が耳朶を叩くと、手の動きが早まった。
「…んっ…ぁ…はっ、ぁ…っ」
塞がれた唇の中からエースの嬌声が散らばる。
一際強く擦り合わせてやると、二人分の精液であっさりと手を白く汚した。
エースのつま先が痙攣するように何度か震える。
弾ける瞬間の悲鳴は、お互いの口の中で溶けた。
「…は…っぁ…」
達した場所からようやく手が解放された。
それと同時に離れた唇からは銀の糸を引き、息苦しさからか、それとも達した快感からか、黒い眼の端から涙が見える。
それからエースは、情緒も余韻もなく、使わなかった方の手の甲で乱暴に口元を拭うと、ぶつかり合う視線を嘲笑うように、もう一度だけ唇を合わせた。
end.
むしゃくしゃしてやった、みたいなノリで書いたマルエーロ。
ヤマもオチも谷もありません…。
本番よりも事前事後に力を入れるこの趣向は一体。
げふんげふん。事前事後を書くほうが楽しいです。
でもエロくならないんだー…。
なんか、エースくんは致すときもやんやんうるさいと良いな、なんて妄想してたらこんなことに。
あれがいやだこれがこうだわーわー、みたいな。
マルコさんはそれを上手にスルーしながらさっさとことを運べばいいと思います。
二人ともそんなにやりたがりではないけれど、やるとなると一から十までがっつりやればいいと思います。
お粗末さまでした!!!
2010/06/03