リナリア:3




夜の闇を削るランプの明かりが、波の動きにあわせて揺れる。
規則正しい波の音と寝息から隠れるように、船倉の中、二つの影が重なっていた。
積み上げられた木箱の端に腰掛けたゾロの腕の中には、嬉しくて仕方がないという表情のルフィが笑っている。

「さ、やるか」

色気もなにもない誘い文句で、ルフィはゾロの唇に噛み付いた。
囁き合う声と髪に絡む指先に甘いものが混じり始める。
ルフィは脇に抱えていた毛布をあっさりと床に落とすと、空いた両腕をゾロの首に回す。
呼吸が止まり、息苦しくなってからようやくその腕を離すと、あの透き通った緑の眼の底に色を湛えた視線とぶつかった。
その視線を自分の視線に捕らえて、もう一度ルフィは笑う。
背中を抱いていた力強い腕がまたルフィを引き寄せる。
覗いた首筋にゾロの口が触れると、ルフィがくすぐったい声を出した。

「あ。そうだ、えっと」

ここで何か思い出したらしい。
ルフィが一度身体を離してゾロを見る。
何か記憶を辿るような仕草をした後、ちゃんと思い出せたようで、両手をポンと打つ。
そしてそれをそのまま口にした。

「ハジメテだから、優しくしてね?」

こて、っと小首をかしげて上目遣いをする。
瞬間、ゾロは後頭部を鈍器で殴られたような衝撃が走った。

「…お前、それ誰に言えって言われた?」
「ナミ」
「…だろうな」

即答したルフィの両肩に手を置いて、ため息を吐く。

「あでも、ハジメテってのはほんとだぞ」

あっけらかんと、ルフィは言ってのけた。

「おれのハジメテはいっつもゾロだ」

ししししし、とあの顔で笑った。

…この切り返しは反則じゃないだろうか。
頭痛がする気がして、額を押さえた手の隙間から、ルフィの顔を覗き見ると、なんとも表現しようのない輝きを持った顔でゾロを見つめていた。
そして腹を括ったといわんばかりにゾロは緑の目を細めると、するりとルフィの腕を掴む。

「…初めからそのつもりだよ」

ぐいとその肩を引き寄せる。

「わ」

ルフィが驚いてこちらを見やる。
しかし、何かを言わせる間も与えず、唇を自分のそれで塞ぐ。
触れた唇が柔らかく温度を交換し合うと、側で心臓の音がした。

「…ん、」

何度か触れては離れるを繰り返して、舌先を絡めて部屋に水音が広がり始める。その頃には唇は丸い輪郭をなぞり、ルフィの首元に降りていく。
頸動脈を辿って胸元に落ち着くと、いつの間にか外されていた赤いベストのボタンの隙間から指先が侵入して、柔らかい肌に触れた。
そのまま舌先はルフィの胸の飾りを舐めて吸う。

「くすぐってぇよ」

自分の胸元を弄る男の頭を抱えるようにして、ルフィが笑い声混じりで抗議すると、くすぐったさが不意にちくりとした痛みに変わった。

「ちょ…、ゾ、ロ」

胸元に軽く歯を立てて、それから何度かに分けて吸う。
くぐもった声が喉の奥から零れ落ちたと思うと、ルフィは足の間に別の刺激を感じて息を呑む。

「…っ」

ハーフパンツの上からなぞられる形を自覚して頬が染まった。
ゾロが何度か指先でなぞった後、今度はハーフパンツのボタンに手をかける。
胸元から唇は離さないで、そのまま音もなくハーフパンツを下に落とした。
腰を支えていた手が離れて、ゆっくり足の間に手を這わせる。

「……っ」

敏感な部分を触れられて思わず息が零れた。
ゾロの頭に回していた腕に力が入る。
辿っていただけの指先が徐々に形を覚えて柔らかく握りこむと、ルフィは一度大きく息を吐く。
緩急をつけて擦り上げてやると、少しだけ開いた唇から甘ったるい息と声が漏れた。

「…っ…ゾ…ロ…っ…」

淫靡な水音に混じって息と声が零れる頃には、ゾロを抱きしめていた腕に力が籠る。
ルフィの背筋を這い登ってくる言いようのない感覚に、自然と涙が浮かんだのが判った。

「…う…ぁっ…あぁ」

そのまま小さな声と一緒にあっさりと白い液体を吐き出した。
右手に散った白濁を少し舌先で掬い取ると、ゾロは得意げな顔をしてみせる。
涙目になってこちらを睨み付けるルフィが目に入った。
その表情はゾロの中に燻る劣情に更なる火をつけるには十分すぎる。
白い液体で濡れた右手をそのまま後ろに回し、ゆっくりと探ってから後孔に指先を立てた。

「…っ」

それから内側をほぐす様にして少しずつ指先を侵入させると、噛み締めていたルフィの唇から押し殺したような声が漏れ出る。

「痛いか?」
「…痛く…ねぇ…けど…っ…苦し…っ」
「痛いってことじゃねぇか」
「だいじょぶ…」

しがみ付いたルフィの声は、いつもの気丈な声ではなかったが、それでも笑って見せる彼をとても愛おしく思った。
何度か身体の中を弄って、じっくり慣らしてやる。

「あっ…!!」

しばらくすると、一際高い声と共に、ルフィの身体が跳ねた。

「…あぁ、見つけた」

まるで予想通りの実験結果が出たといわんばかりの満足そうな声音を、耳元でそっと囁いてやる。
やっと見つけたその場所を何度も刺激してやると、細い身体が幾度も過剰に反応した。

「…ゾロ…っそれ…なん…か、おかし…っ…い…」

侵入する指先を増やすと、縋るように首に巻きついてくる腕に力が入る。
痛みと快感がない交ぜになった感覚に、ルフィはゾロの肩口で必死に頭を振った。

「…やっ…ぁ…あ…っ」

下に落ちる声音が甘ったるく絡みついた。
頃合を見て、指先をルフィの中から外すと、ルフィの身体を抱え直す。
いつの間にか頬に流れていた涙を唇で拭ってやり、ゆっくりと投げ出した毛布の上に細い身体を押し倒すと、低い声で囁いた。

「…ちょっと我慢しろよ」

大きな手がルフィの輪郭を掴むように口を塞ぐ。
そしてルフィの身体の奥に比べものにならない痛みが走った。

「…んっ…ん〜っ!!」

悲鳴に似た声は阻まれてくぐもった音に変わり果てる。
先ほど拭った涙がまた溢れて頬を濡らした。
少しずつ身体を進めて、一番奥まで辿り着くと、覆っていた手が離れる。

「息吐け、ゆっくり」

宥めるように囁く声と、ルフィは素直に一緒に熱い息を吐き出した。
歪めた表情に涙が浮かぶ。

「大丈夫か?」
「…へぇ…き…っ」

泣きそうな声を我慢して笑ってみせるルフィを愛しく思いながら、負担をかけていることに違いはない。それが心苦しい。
しかし、それ以上に熱を欲しがる欲求が強く出た。
泣かせようが叫ばせようが、この熱を手離す気など微塵もなかった。
嗜虐心にも似た欲望に、自分でも呆れた。

息苦しそうに何度も空気を吸うルフィの額に、あやすように唇を落とす。
それから少しずつ身体を揺すってやると、重苦しい声が徐々に甘みを帯びて薄く開いた唇から零れた。

「…ぁっ…んっ…ぁあっ…」

部屋を満たす淫猥な音に混じって、慣れない悲鳴が耳朶を擽ると、この上なく興奮した。
徐々に揺さぶる速度が増して高い声が上がり始め、一番上が見えてくる。

「悪い…中に…出してぇ…っ」

ゾロは苦しさを吐き出すように囁いた。

「…っぁ…い、いいぞ…」

すると、自分の下で痛みと快楽で歪む顔が、薄く笑う。

「全部…受け止めてやる…ぞっ、…おれは、お前の船長だからっ…な」

頬を伝う涙と、乱れた呼吸が淫蕩な空気を浮き彫りにするというのに、今、ゾロが組み敷いている男はどこか楽しげに笑ってみせた。
ゾロの首に回していた腕が、左耳の三つのピアスを柔らかく掠めてから、両頬をに添えられる。
こんな状況だというのに、全く支配されることのない視線。
それだけで、ゾロはもう全身がこの男のものであることを理解した。
全く解けることのないその眼の呪縛に強く引かれて、まるで呼吸をするように自然にその唇を塞ぐ。
何度も何度も貪って、交換して、息を乱す。
そして触れ合った唇が離れる前に、一番高い熱が弾けた。




「あー…しあわせだなー」

ランプの明かりだけの船倉に広がった淫蕩な空気が少しずつ薄まる頃、殆ど途切れかけている天井の闇に手を伸ばして、ルフィが呟いた。
まだ先ほどの行為の残滓を色濃く残したその身体が闇に浮かび上がる。
事後の余韻などまるで感じさせないような明るい声音に、隣に座っていたゾロは思わずその眉間に皺を寄せて訊く。

「…なにが?」
「繋がるの」

即答だった。

「…そうか」

素直に良かったと言えないのかこいつは。
内心で照れ隠しとも毒づきとも取れる言葉を吐くものの、それがルフィの耳に届くことはない。
しかし、そんなゾロのことなどあっさり見透かしていたように、ルフィは続けた。

「うーん、何だ、なんていうかな、」

そこでルフィは毛布の上の腕をするりと伸ばして、側にあったゾロの指先と自分の指先を絡める。

「なんか、こうやって繋がるのって、しあわせだな」

もう一度、あの顔で笑う。

触れた体温。絡んだ指先が、鼓動の音を伝える。
それは身体だけではなくて心を繋ぐ行為だ。
それを難なく言ってのける船長は、昨日までのルフィとは全く違う表情で笑ってみせた。
急に色を知った女のような、それでいてあどけない子供のような、妖艶で無邪気な魅惑的な表情。
ゾロを惹き付けて止まないあの表情。
完全に、してやられた。

しかし、当のルフィは言いたいだけ言って、そのまま毛布に身体を預けて、さっさと瞼を閉じてしまう。
寝つきの良さだけは自分以上のスキルを発揮する船長に、ゾロは言葉を失った。
その寝顔を見つめて、空いていたほうの手で自らの顔を覆う。
誰も見ていないというのに、その緩む目元と口元を隠したのだ。
そしてひとつ息を吐いた。
絡めた指先だけが現実味を持っていた。



end.




こっそり書きたかったゾロル初めて編。
ゾロは船長のものですから、初めてだろうがなんだろうが、主導権は船長にあると思います。
それにしても毎回長くてすみません…。

お粗末さまでした!!

2010/11/11